「デジタル」と聞くと、パソコンやスマートフォンのような電子機器を思い浮かべるかもしれません。
ところが、電気も電池も使わない、身近なデジタルの計算道具があります。算盤(そろばん)です。
珠を指ではじいて計算するそろばんが、なぜデジタルなのでしょうか。その理由は、「デジタル」という言葉の意味にあります。
デジタルは「電子式」という意味ではない
デジタルとは、情報を、はっきり区別できる飛び飛びの値で表す方式です。一方、連続的に変化する量で表す方式をアナログといいます。
例えば、階段では一段、二段と段数を数えられます。これに対して、坂道の高さは滑らかに変化します。この違いを思い浮かべると、デジタルとアナログの違いをつかみやすくなります。
電気を使うかどうかは、別の話です。デジタルであっても、電子回路が必要とは限りません。
そろばんは、珠の組み合わせで数字を表す
一般的な日本のそろばんには、各桁に、梁を挟んで上に一つ、下に四つの珠があります。上の珠は「5」、下の珠は一つにつき「1」を表し、梁に寄せた珠を読み取ります。
| 表す数字 | 梁に寄せる珠 |
|---|---|
| 0 | なし |
| 1 | 下の珠を一つ |
| 4 | 下の珠を四つ |
| 5 | 上の珠を一つ |
| 7 | 上の珠を一つ、下の珠を二つ |
| 9 | 上の珠を一つ、下の珠を四つ |
それぞれの桁では、珠の組み合わせによって0から9までを表します。珠を途中まで動かしたからといって、その移動距離に応じて数が変わるわけではありません。
珠の位置を、区別された状態として読み取る。ここが、そろばんをデジタル式と呼べる理由です。
「繰り上がり」も目に見える
そろばんでは、ある桁を一の位と決めれば、その左が十の位、さらに左が百の位になります。
例えば、下の珠を四つ寄せた「4」に「1」を足す場合、下の珠を四つ戻し、上の珠を一つ寄せて「5」にします。
「9」に「1」を足す場合は、その桁を「0」にして、左隣の桁に「1」を加えます。これが繰り上がりです。
数字の書き換えとして覚えていた計算を、珠の動きとして確かめられるのが、そろばんの特徴です。
デジタルでも、二進法とは限らない
コンピューターが情報を0と1で扱うことから、「デジタルとは二進法のこと」と思われる場合もあります。しかし、デジタルという方式と、何進法を使うかは別の話です。
そろばんは、各桁で0から9を表し、10になると次の桁へ繰り上がる十進法の計算道具です。
一方、多くのコンピューターは、内部の処理に二進法を使います。表し方は異なりますが、どちらも区別された値で数を扱っています。
計算尺との違い
そろばんと対比すると分かりやすいのが、計算尺です。
計算尺は、目盛りの位置や長さの関係を使って、掛け算や割り算などを行う道具です。値を読み取る位置は連続的に変化するため、アナログ式に分類されます。
そろばんも計算尺も手で操作しますが、数の表し方が違います。
| 道具 | 数の表し方 | 方式 |
|---|---|---|
| そろばん | 珠の組み合わせ | デジタル式 |
| 計算尺 | 連続する位置や長さ | アナログ式 |
計算を動かすのは、人の手と頭
そろばんは数を表し、計算の途中の状態を保持できます。しかし、珠をどう動かすかを判断するのは使う人です。電卓のように、式を入力すれば自動で答えが出るわけではありません。
「電気のいらないデジタル計算機」という呼び方は、そんなそろばんの仕組みに目を向けるための表現です。より具体的には、人が操作して計算する、十進法のデジタル式計算道具といえます。
見慣れたそろばんも、数の表し方から眺めると、コンピューターと共通する一面が見えてきます。デジタルは、画面や電子回路の中だけにあるものではないのです。
